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 辛未十,設齋おがみ於殯宮。  甲申廿三,新羅遣王子せしむ金霜林こむさうりむ、級飡きふさん金薩慕こむさちも及級飡金仁述こむにんじゆつ、大舍だいさ蘇陽信そやうしん等,奏請國政くにのまつりごと,且獻調賦みつき。學問僧ものならふほふし智隆ちりう附而至焉まゐけり。筑紫大宰便告つぐ天皇崩於霜林等。即日そのひ,霜林等皆著喪服あさのきぬ,東向三拜をろがみ三發哭焉。  冬十月辛卯朔壬子廿二,皇太子草壁率公卿、百寮人等并あはせ諸國司くにのみこともち、國造くにのみやつこ及百姓おほみたから男女,始築つく大內陵おほちのみさざき。
 十二月辛卯朔庚子十,以直廣參ぢきくわうさむ路真人迹見みちのまひととみ,為饗あへたまふ新羅敕使みかどのつかひ。是年也,太歲丁亥。  二年,春正月庚申朔一,皇太子率公卿、百寮人等,適殯宮而慟哭焉。  辛酉二,梵眾發哀於殯宮。
 丁卯八,設無遮大會於藥師寺やくしじ。  壬午廿三,以天皇崩,奉宣のたまふ新羅金霜林等。金霜林等乃三みたび發哭。  二月庚寅朔辛卯二,大宰獻新羅調賦,金くがね、銀しろかね、絹かとり、布、皮かは、銅あかがね、鐵ねりかね之類たぐひ十餘物,并別所獻佛像ほとけのみかた,種種くさぐさ彩絹しみのきぬ,鳥とり、馬うま之類十餘種,及霜林所獻金、銀、彩色しみのもの,種種珍異之物めづらしきもの,并八十餘物。
 己亥十,饗霜林等於筑紫館つくしのむろつみ。賜物ものたまふ各有差。  乙巳十六,詔曰:「自今以後のち,每取あたらむ國忌日,要須齋也かならずをろがみすべし。」  戊午廿九,霜林等罷歸まかりかへりぬ。
 三月己未朔己卯廿一,以華縵進于殯宮。藤原朝臣大嶋誄焉。  五月戊午朔乙丑八,以百濟敬須德那利きやうすとくなり,移甲斐かひ國。  六月戊子朔戊戌十一,詔:「令のりごとし天下,繫囚とらへびと極刑しぬるつみ減本罪もとのつみ一等しな。輕繫かるきとらへひと 皆赦除之ゆるしやめよ。其令天下皆半入なかばいれしめ今年調賦。」
 秋七月丁巳朔丁卯十一,大雩おほきにあまごひす。旱也ひでりなればなり。  丙子廿,命百濟沙門道藏だうざう請雨あまごひ。不崇朝あしたををへぬ,遍あまねく雨天下。  八月丁亥朔丙申十,嘗みけ于殯宮而慟哭焉。於是大伴宿禰安麻呂おほとものすくねやすまろ誄焉。
 丁酉十一,命淨大肆じやうだいし伊勢王いせのおほきみ,奉宣葬儀みはぶりのよそほひ。  辛亥廿五,耽羅たむら王こにきし遣佐平さへい加羅から,來獻方物くにつもの。  九月丙辰朔戊寅廿三,饗耽羅佐平加羅等於筑紫館。賜物各有差。
 冬十一月乙卯朔戊午四,皇太子率公卿、百寮人等與諸蕃となりのくにぐに賓客まらひと,適殯宮而慟哭焉。於是奉奠,奏楯節儛たたふしのまひ。諸臣まへつきみたち各舉己先祖おや等所仕狀つかへまつれるかたち,遞たがひに進誄焉。  己未五,蝦夷えみし百九十餘人,負荷になひ調賦而誄焉。  乙丑十一,布勢朝臣御主人、大伴宿禰御行おほとものすくねみゆき,遞進而誄。直廣肆當麻真人智德たぎまのまひとちとこ,奉誄皇祖すめみおや等之騰極ひつぎのこと次第つぎて。禮也。古いにしへ云日嗣ひつぎ也。畢おはり葬于大內陵。
 十二月乙酉朔丙申十二,饗蝦夷男女二百一十三人於飛鳥寺西槻つき下。仍授冠位かうぶりのくらゐ,賜物各有差。 四、草壁皇子薨與淨御原令  三年,春正月甲寅朔一,天皇朝萬國くにぐに于前殿おほとの。
 乙卯二,大學寮ふむやのつかさ獻杖みつゑ八十枚。  丙辰三,務大肆むだいし陸奧みちのく國優嗜曇郡うきたまのこほり城養蝦夷きかふのえみし脂利古しりこ男,麻呂まろ與鐵折かなをり,請剔鬢髮ひげかみ為沙門。詔曰:「麻呂等少而閑雅みやび寡すくなし欲ものほり。遂至於此,蔬食くさびらくらひ持戒いみのり。可隨所請出家いへです修道おこなふ。」  庚申七,宴とよのあかり公卿,賜袍袴きぬはかま。
 辛酉八,新羅使人つかひ田中朝臣法麻呂等,還自新羅。  壬戌九,詔出雲いづも國司,上送あげおくらしむ遭值風浪蕃人となりのくにのひと。  是日,賜越こし蝦夷沙門道信だうしん,佛像一軀はしら,灌頂幡くわんぢやうばん、鍾かね、鉢はち各一口,五色綵ごしきのしみのきぬ各五尺さか,綿五屯みせ,布一十端むら,鍬すき一十枚ひら,鞍くら一具そなへ。筑紫大宰粟田真人朝臣あはたのまひとのあそみ等,獻たてまつる隼人一百七十四人,并布五十常きた,牛皮うしのかは六枚,鹿皮しかかは五十枚。
 戊辰十五,文武官人ふみつはもののつかさひと進薪みかまぎ。  己巳十六,賜百官ももつかさ人等食をしもの。  辛未十八,天皇幸いでます吉野宮。
 甲戌廿一,天皇至自吉野宮よしののみや。  二月甲申朔丙申十三,詔:「筑紫防人さきもり,滿年限としのかぎり者替かへ。」  己酉廿六,以淨廣肆じやうくわうし竹田王たけだのおほきみ、直廣肆土師宿禰根麻呂はじのすくねねまろ、大宅朝臣麻呂おほやけのあそみまろ、藤原朝臣史ふぢはらのあそみふびと、務大肆當麻真人櫻井たぎまのまひとさくらゐ、穗積朝臣山守ほづみのあそみやまもり、中臣朝臣臣麻呂、巨勢朝臣多益須、大三輪朝臣安麻呂おほみわのあそみやすまろ,為判事ことわるつかさ。
 三月癸丑朔丙子廿四,大赦おほきにつみゆるす天下。唯常赦つねのゆるし所不免ゆるされぬ,不在赦例ゆるしのかぎり。  夏四月癸未朔庚寅八,以投化新羅人,居于下毛野。  乙未十三,皇太子草壁皇子尊薨かむさり。
 壬寅廿,新羅遣級飡金道那こむだうな等,奉弔とぶらひ瀛真人天武天皇喪,并上送おくりたてまつる學問僧ものならふほふし明聰みやうそう、觀智くわんち等。別獻金銅あかがね阿彌陀あみだ像、金銅觀世音菩薩くわんぜおんばさつ像、大勢至菩薩だいせいしばさつ像各一軀,綵帛しみのきぬ、錦にしき、綾あや。  甲辰廿二,春日王かすがのおほきみ薨。  己酉廿七,詔:「諸司もろもろのつかさ仕丁つかへのよろほ,一月放ゆるし假いとま四日。」
 五月癸丑朔甲戌廿二,命土師宿禰根麻呂,詔新羅弔使とぶらひつかひ級飡金道那等曰:「太政官おほきまつりごとのつかさ卿等まへつきみたち奉敕みことのりうけたまはり奉宣のたまはく。二年,遣田中朝臣法麻呂等,相告つげしめき大行天皇さきのすめらみこと喪。時新羅言:『新羅奉敕人者元來もとより用蘇判位そはんゐ。今將復また爾しかせむ。』由是法麻呂等不得えざりき奉宣赴告之詔つぐるみことのり。若言前事さきのこと者,在昔むかし難波宮なにはのみや治天下あめのしたしらしめし天皇孝德崩時,遣巨勢稻持こせのいなもち等,告つげし喪之日,翳飡えいさん金春秋こむしゆんじう奉敕。而言まをす用蘇判奉敕,即違たがへり前事也。又於近江宮あふみのみや治天下天皇天智崩時,遣一吉飡いつきつさん金薩儒こむさちぬ等奉弔。而今以級飡奉弔,亦違前事。又新羅元來奏云:『我國自日本遠皇祖代とほつみおやのみよ,並舳へをならべ不乾檝かぢをほさず奉仕之國つかへまつれるくに。』而今一艘,亦乖たがへり故典ふるきのり也。又奏云:『自日本やまと遠皇祖代,以清白心あきらけきこころ仕奉。』而不惟おもはず竭忠まめこころをつくし宣揚のべあぐ本職もとつかさ。而傷やぶり清白,詐いつはり求幸媚まめきこぶる。是故このゆゑ調賦與別獻ことにたてまつれるもの,並封ゆひかため以還之。然自我國家みかど遠皇祖代,廣慈めぐみ汝等之德みいきほひ,不可絕之やゆべからず。故彌勤いよいよつとめ彌謹つつしみ,戰戰兢兢おぢかしこまり,修をさめ其職任つかさ,奉遵したがひ法度者,天朝みかど復廣慈ひろくめぐみ耳のみ。汝いまし道那等奉斯この所敕,奉宣汝王。」  六月壬午朔一,賜衣裳きもの筑紫大宰等。  癸未二,以皇子施基しき、直廣肆佐味朝臣宿那麻呂さみのあそみすくなまろ、羽田朝臣齊はたのあそみむごへ、【齊,此云むごへ牟吾閉。】勤廣肆ごんくわうし伊余部連いよべのむらじ馬飼うまかひ、調忌寸老人つきのいみきおきな、務大參むだいさむ大伴宿禰手拍おほとものすくねたうち與巨勢朝臣多益須等,拜めす撰善言司よきことえらふつかさ。
 庚子十九,賜大唐もろこし續守言しよくしゆげん、薩弘恪さつこうかく等稻いね。各おのもおのも有差。  辛丑廿,詔筑紫大宰粟田真人朝臣等,賜學問僧明聰、觀智等,為送新羅師友とも綿,各一百四十斤。  乙巳廿四,於筑紫小郡をごほり設あへたまふ新羅弔使金道那等。賜物各有差。
 庚戌廿九,班賜わかちたまふ諸司,令のりふみ一部二十二卷。  秋七月壬子朔一,付賜さづけたまふ陸奧蝦夷沙門自得じとく所請こひまをせる金銅藥師佛やくしぶつ像、觀世音菩薩像各一軀,鍾、娑羅さら、寶帳ほうちやう、香爐かうろ、幡はた等物。  是日,新羅弔使金道那等罷まかり歸。
 丙寅十五,詔左右京職ひむがしにしのみさとつかさ及諸國司,築習射所いくひならふところ。  辛未廿,流偽兵衛かすゐのとねり河內かふち國澀川郡しぶかはのこほり人柏原廣山かしははらのひろやま于土佐とさ國。以追廣參ついくわうさむ,授さづく捉とらへたる偽兵衛廣山兵衛とねり生部連虎みぶべのむらじとら。  甲戌廿三,賜越蝦夷八釣魚やつりな等。【魚,此云な儺。】各有差。
 秋八月辛巳朔壬午二,百官會集まゐうごなはり於神祇官かむづかさ,而奉宣天神地祇あまつかみくにつかみ之事。  甲申四,天皇幸吉野宮。  丙申十六,禁斷いさめやめ漁獵すなどりかり於攝津つ國武庫海むこのうみ一千步內,紀伊き國阿提郡あてのこほり那耆野なきの二萬頃しろ,伊賀いが國伊賀郡いがのこほり身野みの二萬頃,置守護人もりひと,准なぞらふ河內國大鳥郡おほとりのこほり高腳海たかしのうみ。
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