たい-まつ・る 【奉る】 >[一]他動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ} 差し上げる。▽「与ふ」「贈る」の謙譲語。出典土佐日記 二・五「言ふにしたがひて、幣(ぬさ)たいまつる」[訳] 言うとおりに、幣(ぬさ)を(住吉の明神に)差し上げる。◆「たてまつる」のイ音便。 >[二]補助動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ}…申し上げる。▽謙譲の意を表す。出典宇津保物語 吹上下「世に経(へ)給(たま)はむ限りは、いたはりたいまつらむ」[訳] この世に生きていらっしゃる間は、いたわり申し上げるだろう。 たてまつ・る 【奉る】 >[一]他動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ}①差し上げる。献上する。▽「与ふ」「贈る」の謙譲語。出典徒然草 二三一「人に物を取らせたるも、ついでなくて、『これをたてまつらん』と言ひたる、まことの志なり」[訳] 人に物を与える場合も、何のきっかけもなくて、「これを差し上げましょう」と言っているのが本当の誠意である。②お伺いさせる。参上させる。▽「遣(や)る」の謙譲語。出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの「『上渡らせ給(たま)ひて、かかること』など殿に申しにたてまつられたりければ」[訳] 「天皇様が(女御の所に)おいでになって、これこれのことが(行われています)」と、人々が左大臣殿にお知らせするために(使いを)参上させなさったので。③召し上がる。お召しになる。▽「飲む」「食ふ」「着る」の尊敬語。出典竹取物語 かぐや姫の昇天「一人の天人言ふ、『壺(つぼ)なる御薬たてまつれ』」[訳] 一人の天人がかぐや姫に言うには「壺にあるお薬を召し上がれ」。 >[二]自動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ}お乗りになる。▽「乗る」の尊敬語。出典竹取物語 御門の求婚「御輿(こし)にたてまつりてのちに」[訳] (帝(みかど)は)御輿にお乗りになってから。 >[三]他動詞 ラ行下二段活用活用{れ/れ/○/○/○/○}① >[一]①に同じ。出典源氏物語 若紫「御文たてまつれ給(たま)へり」[訳] お手紙を差し上げなさった。② >[一]②に同じ。出典源氏物語 若紫「君の御許よりは、惟光(これみつ)をたてまつれ給(たま)へり」[訳] 源氏のおもとからは、従者の惟光を参上させなさった。 >[四]補助動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ}〔動詞や受身・使役の助動詞の連用形に付いて〕…申し上げる。▽謙譲の意を表す。出典徒然草 三二「九月二十日のころ、ある人に誘はれたてまつりて」[訳] 九月二十日ごろ、ある人に誘われ申し上げて。 参考同じ謙譲の補助動詞に「聞こゆ」があるが、『源氏物語』などでは、「奉る」は「見る」「聞く」、および「返す」「抱く」などの動作を表す動詞、助動詞「る」「らる」「す」「さす」「しむ」に付き、「聞こゆ」は「思ふ」「恋ふ」などの精神活動を表す動詞に付く傾向があるといわれる。 まつ・る 【奉る】 >[一]他動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ}①献上する。差し上げる。▽「与ふ」「やる」の謙譲語。出典万葉集 六三六「わが衣形見にまつる」[訳] わたしの衣を形見として差し上げる。②召し上がる。▽「飲む」「食ふ」の尊敬語。出典続日本紀 天平一五「やすみしし(=枕詞(まくらことば))わご大君は…豊御酒(とよみき)まつる」[訳] わが天皇は…美酒を召し上がる。 >[二]補助動詞 ラ行四段活用活用{ら/り/る/る/れ/れ}〔他の動詞の連用形に付いて〕お…申し上げる。お…する。▽謙譲の意を表す。出典万葉集 三九二二「大君に仕へまつれば」[訳] 天皇にお仕え申し上げると。 参考 >[二]は、平安時代以後は、「たてまつる」「つかうまつる」などとして、謙譲の本動詞の中に残る。上代語。 |