たてまつら-せ-たま・ふ 【奉らせ給ふ】 分類連語 (一)〔「奉る」が動詞の場合〕①〔「す」が尊敬の意の場合〕お差し上げあそばす。出典源氏物語 少女「色々の花・紅葉をこきまぜてこなたにたてまつらせたまへり」[訳] 色々の花や紅葉を取りまぜて、こちらにお差し上げあそばした。②〔「す」が使役の意の場合〕差し上げさせなさる。出典源氏物語 梅枝「みづからの御料(れう)の直衣(なほし)の御よそひ一くだり、…御車にたてまつらせたまふ」[訳] (源氏は)自分のお召し物の直衣の御装束ひとそろいを、…(使いに命じて)御車に差し上げさせなさる。(二)〔「奉る」が補助動詞の場合。動詞の連用形に付いて〕お…申し上げあそばす。出典源氏物語 薄雲「院に別れたてまつらせたまひにし程は」[訳] (帝(みかど)が)院にお別れ申し上げあそばしたときは。(三)〔「奉らす」が連語(一)②の場合〕①差し上げなさる。お差し上げになる。出典枕草子 中納言まゐり給ひて「中納言参り給(たま)ひて、御扇たてまつらせたまふに」[訳] 中納言が参上なさって、(中宮に)御扇をお差し上げになるときに。②〔動詞の連用形に付いて〕お…申し上げなさる。▽「たてまつらす」は補助動詞的に用いられる。出典源氏物語 若菜上「六条院も少し御心地よろしくと聞きたてまつらせたまひて」[訳] 六条院も(朱雀(すざく)院が)少し御容体がよいとお聞き申し上げなさって。 語法「たてまつらせたまふ」は、謙譲語と尊敬語とを含んでいて、二人の人を同時に敬う表現(いわゆる二方面の敬語)である。動作を受ける人への敬意は上部の「たてまつる」や「たてまつらす」で表し、動作の主への敬意は下部の「せたまふ」や「たまふ」で表す。 注意(1)「たてまつらせたまふ」の構造を数式的に表せば、(一)①や(二)は「たてまつら+(せ+たまふ)」となり、②(一)②や(三)は「(たてまつら+せ)+たまふ」となる。これらの構造を理解しておくと、語義はわかりやすくなる。(2)(一)①と(三)①とは同じような意味だが、最高敬語の形を含む前者の方が後者より敬意が強い。 なりたち(一)は謙譲の動詞「たてまつる」の未然形+使役・尊敬の助動詞「す」の連用形+尊敬の補助動詞「たまふ」。(二)は謙譲の補助動詞「たてまつる」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+尊敬の補助動詞「たまふ」。(三)は連語「たてまつらす(一)②」の連用形+尊敬の補助動詞「たまふ」 |