はな 【花】 名詞① (草木の)花。出典枕草子 木の花は「橘(たちばな)の葉の濃く青きに、はなのいと白う咲きたるが」[訳] 橘の葉が、色濃く青いのに、花がたいそう白く咲いているのが。②(ア)梅の花。出典古今集 春上「人はいさ心も知らずふるさとははなぞ昔の香(か)ににほひける」[訳] ⇒ひとはいさ…。(イ)桜の花。出典更級日記 子忍びの森「はな・紅葉(もみぢ)の思ひもみな忘れて悲しく」[訳] (春の)桜や(秋の)紅葉(にあこがれた)思いもすっかり忘れて、ただ悲しく。③仏に供える花。特に、樒(しきみ)の花や枝葉。出典源氏物語 若紫「簾(すだれ)少し上げて、はな奉るめり」[訳] (尼君は)すだれを少し上げて、(仏に)花をお供えしているようだ。④(露草の花からとった)薄い藍(あい)色の絵の具。また、露草の花の色。はなだ色。出典枕草子 野分のまたの日こそ「はなも返り濡(ぬ)れなどしたる」[訳] はなだ色もあせてぬれたりなどしている(ものを着て)。⑤(芸人などに与える)祝儀。心付け。▽贈り物を花の枝に付けて贈ったところから。出典世間胸算用 浮世・西鶴「近付きの芸者にはなをとらせ」[訳] ひいきの役者に祝儀を与え。⑥はなやかさ。はでなこと。栄華。栄誉。出典古今集 恋三「君によりわが名ははなに春霞(はるがすみ)野にも山にも立ち満ちにけり」[訳] あなたのおかげで私の評判ははでに世間に立ってしまったよ。まるで花(の咲くとき)の春霞が野にも山にも一面に立ち込めているように。⑦不誠実な心。移ろいやすい心。▽人の心を実(=誠実さ)に対比させた花にたとえる。出典古今集 恋五「色見えでうつろふものは世の中の人の心のはなにぞありける」[訳] ⇒いろみえで…。⑧表現。表現技巧。表現の美しさ。▽歌論・俳論で、心(=意味内容)を「実(じつ)」というのに対する。出典毎月抄 「いにしへの歌はみな実を存してはなを忘れ」[訳] 昔の和歌は、みな心ばかりで、表現の美しさを忘れていて。⑨芸の美しさ、魅力。▽世阿弥(ぜあみ)の能楽論で、能の根本をなす最高の理念とされる。出典風姿花伝 七「秘すれば、はななり。秘せずは、はななるべからず」[訳] 秘密にするから芸の魅力なのである。秘密にしないならば芸の魅力であるはずがない。 参考古文で「花」といえば桜の花をさすことが多いが、『万葉集』や『古今和歌集』春歌上では多く梅の花をさす。 カ 【火・花・果・華・菓・靴・過】 ⇒くゎ |