い・し 【美し】 形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ} ①よい。好ましい。みごとだ。出典源平盛衰記 一七「歌の声のよさよ、いしういしうとほめられたり」[訳] 歌の声の良さよ、みごとだ、みごとだとおほめになった。◇「いしう」はウ音便。②殊勝だ。けなげだ。出典平家物語 九・三草合戦「いしう申させ給(たま)ふ田代殿かな」[訳] 殊勝にも申された田代殿であるよ。③(味が)よい。うまい。出典比丘貞 狂言「いしい酒でおりゃる」[訳] うまい酒でございます。◇「いしい」はイ音便。 語の歴史③は、上に「お」を付けた「おいしい」が、室町時代に女房詞(ことば)として女性に多く用いられ、現代語の「おいしい」になった。 うるわし 【麗し・美し・愛し】 ⇒うるはし くわし 【細し・美し・詳し・精し】 ⇒くはし うま・し 【甘し・旨し・美し】 >[一]形容詞 ク活用活用{(く)・から/く・かり/し/き・かる/けれ/かれ}①おいしい。味がよい。出典万葉集 三八五七「飯(いひ)はめどうまくもあらず」[訳] ご飯を食べてもおいしくもない。②都合がよい。ぐあいがよい。出典国性爺合戦 浄瑠・近松「やあうまい所へ出会うたな」[訳] やあ都合のよい所で出会ったな。◇「うまい」はイ音便。 >[二]形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}すばらしい。立派だ。よい。出典万葉集 二「うまし国そあきづ島大和の国は」[訳] ⇒やまとには…。 参考中古以降ク活用が一般的になった。上代には、 >[二]のシク活用は、用例のように、語幹(終止形と同形)が体言を修飾した。 うつく・し 【愛し・美し】 形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}①いとしい。出典万葉集 八〇〇「父母(ちちはは)を見れば尊し妻子(めこ)見ればめぐしうつくし」[訳] 父と母を見ると尊い、妻と子を見ると切ないほどかわいくいとしい。②かわいい。愛らしい。出典枕草子 うつくしきもの「うつくしきもの。瓜(うり)にかきたるちごの顔」[訳] かわいいもの。瓜に描いたこどもの顔。③美しい。きれいだ。出典平家物語 六・紅葉「はじ・かへでの色うつくしうもみぢたるを植ゑさせて」[訳] はじやかえでの葉の色が美しく紅葉したのを植えさせて。◇「うつくしう」はウ音便。④見事だ。りっぱだ。申し分ない。出典源氏物語 少女「大学の君、その日の文うつくしう作り給(たま)ひて」[訳] 夕霧の君はその日の試験の詩文を見事にお作りになって。◇「うつくしう」はウ音便。⑤〔近世以降連用形を副詞的に用いて〕手際よく円満に。きれいさっぱりと。出典西鶴織留 浮世・西鶴「うつくしう出替はりまで使うて暇(いとま)出さるるは」[訳] 手際よく円満に交代期まで使って暇を出されるのは。◇「うつくしう」はウ音便。 くは・し 【細し・美し】 形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}うるわしい。細やかで美しい。出典万葉集 三三三一「走り出(で)のよろしき山の、出(い)で立ちのくはしき山ぞ」[訳] 山並みの伸びる形がよい山で、そびえている姿がうるわしい山よ。◇上代語。 参考「かぐはし」「まぐはし」「くはし女(め)」など複合語で用いられることが多い。 うるは・し 【麗し・美し・愛し】 形容詞 シク活用活用{(しく)・しから/しく・しかり/し/しき・しかる/しけれ/しかれ}①壮大で美しい。壮麗だ。立派だ。出典古事記 景行「倭(やまと)は国のまほろばたたなづく青垣(あをがき)山ごもれる倭しうるはし」[訳] ⇒やまとは…。②きちんとしている。整っていて美しい。端正だ。出典源氏物語 若紫「同じ小柴(こしば)なれど、うるはしうしわたして」[訳] (ほかと)同じ小柴垣だが、きちんと作りめぐらして。◇「うるはしう」はウ音便。③きまじめで礼儀正しい。堅苦しい。出典大鏡 道隆「この中納言参り給(たま)へれば、うるはしくなりて、ゐなほりなどせられければ」[訳] この中納言が参上なさったので、皆が堅苦しくなって、いずまいを正したりなさったので。④親密だ。誠実だ。しっくりしている。出典伊勢物語 四六「昔、男、いとうるはしき友ありけり」[訳] 昔、男が、とても親密な友人をもっていた。⑤色鮮やかだ。出典土佐日記 二・四「くさぐさのうるはしき貝・石など多かり」[訳] いろいろの色鮮やかな貝や石などがたくさんある。⑥まちがいない。正しい。本物である。出典平家物語 一二・紺搔之沙汰「故左馬頭(さまのかみ)義朝(よしとも)のうるはしきかうべとて」[訳] 亡き左馬頭義朝のまちがいない首だといって。 参考⇒うつくし |